医療用ゼラチンを用いた局所投与後の移植細胞の
漏出抑制に関する論文が『Drug Delivery』に掲載されました
弊社は、新規開発した医療用ゼラチンを用いた、局所投与における漏出抑制技術に関する研究を実施しました。本研究に関する論文が2024年3月22日付けで雑誌『Drug Delivery(ドラッグデリバリー)』(Taylor & Francis Online)*に掲載されましたのでお知らせいたします。
*世界有数の学術出版社Taylor & Francis group(英)が運営するフルオープンサイト。経口、肺、鼻、非経皮・経皮からのドラッグデリバリーシステムと混合、ならびに薬物浸透と薬物標的に関する研究論文を掲載。
掲載誌名 |
Drug Delivery |
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著者名 |
新田ゼラチン株式会社 総合研究所 バイオメディカル部 Kazuki Kotani 小谷 知希 Francois Marie Ngako Kadji(フランソワ マリ ヌガコ カジ) Yoshinobu Mandai 萬代 佳宣 Yosuke Hiraoka 平岡 陽介 |
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題 名 |
Backflow reduction in local injection therapy with gelatin formulations (ゼラチン製剤を用いた局所投与治療時における逆流軽減) |
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■背 景
細胞移植や遺伝子治療といった画期的な治療法においては、移植細胞やウイルスベクター*等の有効成分を局所投与することで、難病を根治できる可能性が示唆されています(図1)。しかし、これらの有効成分は、局所投与してもすぐに逆流、漏出してしまうことが課題とされています(図2)。そこで医療用に開発したゼラチンを使用し、簡便な方法で局所投与後の有効成分の漏れを抑え、注入部位に留まらせることができるか検討を行いました。(図3)
*ウイルスが細胞に入り込む性質を利用して、目的遺伝子を細胞内または核内に導入するウイルス由来の運搬体のこと。
図1
図2
図3
■方 法
- 微粉ゼラチン粒子(GP)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に1~5%濃度で分散させたもの、並びに加水分解ゼラチンをPBSに1~40%濃度で溶解させた(HG)ものの2種類を調製しました。
- これらを様々な外径の注射針*を装着した1mLシリンジを用いて、手術トレーニング用の模擬臓器(VTT)、模擬臓器腫瘍埋め込みタイプ(VTT-T)の組織モデルや、鶏もも肉(BCM)に注入し、抜針後の注入部位を1cm角のろ紙で覆い、漏液を吸収して漏出量を測定しました。(図4、5)
*注射針のサイズを示す。23G(内径350μm)、25G(内径250μm)、27G(内径220μm)、30G(内径200μm)、33G(内径160μm)を使用
図4 模擬臓器(VTT、VTT-T)への注射実験の画像
図5 鶏もも肉(BCM)への注射実験の画像
■結 果
実験の結果から、以下のことが明らかとなりました。
- 微粉ゼラチンを分散させる、または加水分解ゼラチンを溶解することにより、局所注射後の漏出量が大幅に減少しました。
- 微粉ゼラチンは、濃度が高いほど漏出抑制効果が高かった一方で、加水分解ゼラチン溶液には最適濃度が存在し、これにより高い濃度の場合、粘性は高いにも関わらず漏出量が多くなりました。
図6 微粉ゼラチン(GP)を分散させた場合の漏出量の変化
※Backflow rate:漏出割合
- 左グラフ:粒子径35μmのGPを用いた場合、濃度の増加に伴い漏出量を減少していることを示しています。
- 右グラフ:粒子径75μmのGPを用いた場合も濃度の増加により、漏出を抑制できることを示しています。
図7 加水分解ゼラチン(HG)を溶解させた場合の漏出量の変化
- HGの溶解により、PBSに比べて漏出量が減少していることを示しています。
- 加えて、手術トレーニング用の模擬臓器(VTT)の場合は、HGが20~30%濃度、模擬臓器腫瘍埋め込みタイプ(VTT-T)では30%濃度、鶏もも肉(BCM)においては、20~30%濃度で用いることで、漏出量を最も抑制できることを示しています。
■まとめ
この研究結果により、細胞移植や遺伝子治療などの分野において、弊社が新規開発した医療用ゼラチンを用いることで、局所投与後の有効成分の漏れを簡便かつ安全に抑制し、投与効率を向上させることなどが期待されます。
■今後の展望
弊社は、今後も安全な医療用ゼラチンを開発、提供すると共に、医療の進歩に貢献していきたいと考えています。