新規医療用ゼラチンを用いた網膜細胞動物モデル移植の共同研究成果に

関する神戸アイセンター病院の論文が

『Regenerative Therapy(再生医療)』に掲載されました

 

弊社は、神戸市立神戸アイセンター病院(地方独立行政法人 神戸市民病院機構、兵庫県神戸市/以下、「神戸アイセンター病院」という)と、新規医療用ゼラチンを用いた網膜細胞動物モデル移植の共同研究を実施し、その論文が2024年1月12日付けで『Regenerative Therapy(再生医療)* Volume 25 (電子版)』に掲載されましたので、お知らせいたします。

 

*:日本再生医療学会の機関誌。再生医療分野で知っておくべきテーマ、最先端の内容について、各分野の第一人者が執筆し、研究、企業、実用化、規制の現状をわかりやすく把握できる解説、国内外研究、再生医療企業、および最新研究成果に関する情報を掲載。

掲載誌名

Regenerative Therapy Volume 25(ペーパー版は2024年3月出版予定)

筆頭著者名

Shohei Kitahata 北畑 将平

 (横浜市立大学視覚再生外科学、神戸アイセンター病院)

題 名

Evaluation of the usefulness of Gelatin Hydrolysate in Human iPS-RPE Cell Suspension Transplantation

ヒトiPS-RPE細胞懸濁液移植におけるゼラチン加水分解物の有用性の評価

主な研究担当者

神戸市立神戸アイセンター病院 研究センター 客員研究員 北畑 将平

     研究センター長 万代 道子

新田ゼラチン株式会社 総合研究所長兼バイオメディカル部長 平岡 陽介

           総合研究所バイオメディカル部 小谷 知希

 

■新規医療用ゼラチン(LCP)について

エンドトキシン*の低減化処理を行い、医療用素材として使用できる、品質・安全性の高い素材です。共同研究の結果、従来の弊社医療用ゼラチンに比べて、細胞移植に最適な分子量分布をもたせるために加水分解処理をしたペプチドに近い素材(以下、「ゼラチン加水分解物」という)です

 

*:「内毒素」と呼ばれ、体内に入ると発熱等の種々の生体反応を引き起こす物質のこと。

 

 

■背 景

iPS細胞より分化した網膜色素上皮細胞(以下、「hiPSC-RPE」という)の移植は、RPE 機能不全*に対する有望な治療として注目されています。移植形態の一つとして懸濁液移植がありますが、投与方法には改善の余地がありました。そこで、hiPSC-RPEと特定の分子量分布を持つゼラチン加水分解物とを併せた細胞懸濁液について有用性の検討が行われました。

 

*:RPE(網膜上皮)細胞の異常が原因で引き起こされる網膜変性疾患の疾患群。加齢黄斑変性の萎縮型、網膜色素変性の一部及びその類縁疾患等が該当し、根治治療は困難とされている。

 

■方 法

シリコンゲルを使用した網膜モデルを作製し、適切なゼラチン濃度を検証しました。そして細胞生存、低酸素応答、細胞形態、炎症の誘導、免疫応答などに関して、hiPSC-RPEに対するゼラチン加水分解物の影響を調べました。生体における懸濁液の挙動を確認するために、ウサギ網膜下にhiPS-RPE懸濁液を移植し、術後の経過を観察しました。

■網膜下細胞移植治療のイメージ

■結 果

ゼラチン加水分解物を併せることで、インビトロ*での細胞逆流の緩和、細胞生存率の改善、並びに細胞凝集を減少させました。加えて、hiPSC-RPE による細胞沈着による低酸素反応の抑制効果をもたらしました。また、ゼラチン加水分解物は細胞接着や形態に影響を与えず、主要組織適合性複合体クラス II 分子の発現を減少させたことから、hiPSC-RPE に対する免疫反応を抑制できる可能性を示唆しました。

 

蛍光眼底写真*2および OCT 検査*3においては、より多くの hiPS-RPE が、網膜下腔に残っていることが示唆されました。移植部位の免疫染色像では、ゼラチン加水分解物の存在下で、移植したhiPS-RPEが網膜の下で均一に広がって生着していることが示唆されました。

 

*1:「試験管内で」という意味で、試験管や培養器などの中で、ヒトや動物など生物体から抽出した組織を用いて、生体の体内と同様の環境を人工的に作り、薬物の作用を調べる試験。

*2:眼底カメラで網膜表面の状態を撮影したもの。

*3:近赤外線を利用して網膜の断面を拡大して撮影したり、網膜の厚さを正確に測定できる検査方法で、眼底写真より加齢黄斑変性や緑内障の診断に適している。

 

■まとめ

ゼラチン加水分解物は、RPE細胞を含む細胞懸濁液の投与時の有用な補助剤となる可能性があります。

 

■今後の展望

弊社は、今後も安全な医療用ゼラチンを開発、提供すると共に、再生医療を含め医療分野に貢献していきたいと考えています。