医療用ゼラチンと可塑剤を用いた皮膚保護材の研究に関する論文が、

国際誌『Heliyon』に公開されました

 

弊社は、北海道大学 産学・地域協働推進機構 特任教授 柚木俊二氏を中心とする研究グループと、「医療用ゼラチンと可塑剤を使用した新しい皮膚保護材開発」に関する共同研究を実施し、その論文が2024年1月29日付けで国際誌『Heliyon』*(電子版)に掲載されましたので、お知らせします。

 

*米国Cell Press社が出版する「Cell Press」の姉妹誌で、科学的に正確で価値のある研究を報告し、倫理的および科学的出版基準に準拠した論文が掲載される査読付き国際誌です。

掲載誌名

Heliyon

著者名

Shunji Yunoki 柚木 俊二 (北海道大学 産学・地域協働推進機構 特任教授)

Asami Mogi 茂木 麻実 (新日本薬業株式会社)

Keizo Mizuno 水野 敬三 (新日本薬業株式会社)

Yoshiyasu Nagakawa 永川 栄泰 (東京都立産業技術研究センター)

Yosuke Hiraoka 平岡 陽介 (新田ゼラチン株式会社)

題 名

Plasticizer–gelatin mixed solutions as skin protection materials with flexible-film-forming capability

(柔軟な被膜形成能を備えた皮膚保護材としての可塑剤・ゼラチン混合液)

 

■背 景

ゼラチンは生物医学分野で有用な生体高分子の 1 つで、熱応答性、ゲル化特性、形状加工性、細胞親和性、非毒性、生体吸収性を備えた医療用途に有望な素材です。ゼラチンを用いたカプセルや食用フィルム加工には、ゼラチンのガラス化を避けるためにグリセロール等の不揮発性有機化合物*1等が可塑剤として使用されています。しかし可塑剤は、水溶液または体内で使用された場合、ゼラチンベースの材料から浸出してしまうため、体内での使用を想定した可塑化ゼラチンの研究開発は十分になされていません。一方、皮膚表面であれば可塑剤は浸出しないことから、ヒトに安全な可食性の可塑剤をゼラチンに加えることで、柔軟性を有する新しいゼラチンベース皮膚保護材を開発できると着想し、研究を開始しました。

 

*1:常温常圧の大気中で揮発しない有機化学物質(分子中に炭素を含み,炭素が原子結合の中心となっている化合物)の総称

 

■方 法・結 果

6種類の可塑剤を含むゼラチン水溶液のレオロジー特性*1を調べて皮膚への塗布性を評価するとともに、乾燥により生成するゼラチン膜の機械的特性*2および質感を、ポリウレタンベースの傷保護フィルム(市販品)と比較して、ゼラチン膜がヒトの皮膚保護材として有用であることを物性の観点から評価しました。

 

*1:物質の変形や流動に関する材料特性

*2:主に材料を変形させた場合の硬さ・軟らかさ

 

■ゼラチンフィルムの調製方法

1.濃度15 %のゼラチン水溶液に、可塑剤をゼラチンに対する重量比で 0.13 ~ 1.67となるように加え、レオロジー特性を評価しました。

2.ゼラチンフィルムに含まれる可塑剤は、フルクトース(FRU)、グルコース(GLU)、スクロース(SUC)、グリセロール(GLY)、プロピレングリコール(PPG)、および1,3‐ブチレングリコール(BG)。

3.それぞれの可塑剤を混合したゼラチン溶液をシリコンゴム容器に注ぎ、室温で2日間放置しました。

4.容器内に形成された乾燥フィルムを剥がし(画像1)、試験のために小片に切断しました。 

 

画像1:ゼラチンフィルム

(結果)

1.可塑剤はゼラチン溶液の粘度やゲル化温度にほとんど影響を与えませんでした。

2.PPGを除く5種類の可塑剤の添加により、乾燥フィルムは著しく軟化しました。

3.GLYは最良の可塑化効果を示しましたが、得られたフィルムは顕著なべたつきを示しました。

 

■ヒトの皮膚への応用方法

FRU‐ゼラチン混合溶液を皮膚に塗布して空気乾燥することにより柔軟なフィルムが形成されるか実験を行いました。

 

(結果)

1.可塑剤重量比1.0のFRU_ゼラチン溶液を皮膚に塗ると、市販のポリウレタンベースの軟質フィルムと同様の質感と機械的特性を持つ柔軟な薄膜を形成し、皮膚に密着しました(画像2の黒矢印)。一方、可塑剤を含まないゼラチン膜はガラス化し、収縮して剥がれました(画像の灰色矢印)

 

画像2:ヒトの前腕部皮膚へ塗布した状態

2.FRU‐ゼラチンの溶液を皮膚に塗布することで、自然乾燥後に柔軟かつ密着性の高い薄膜を形成しました。入浴や温水シャワー等により患部を傷付けないように除去できることが示されました。

 

■まとめ

この研究結果により、可塑剤とゼラチンを用いた皮膚保護材開発が可能であることが物性の観点から示されました。特に、FRU‐ゼラチンフィルムは、他の可塑剤と比較して優れた柔軟性とべたつかない感触を示し、また非侵襲的*1に皮膚から除去できることが実証されました。この成果は、FRU‐ゼラチンフィルムにより「剥がさない皮膚保護材」という有望なコンセプトが実現できることを示唆し、表面にダメージを負った皮膚を保護するという効果が期待できます。

*1:身体に負担を与えないこと

 

■今後の展望

弊社は、今後も安全な医療用ゼラチンを開発、提供すると共に、医療分野に貢献していきたいと考えています。